ティーペアリング、そこに注ぐ想いとは?

2014年7月、高級飲食店が立ち並ぶ京都祇園の一角にオープンしたフランス料理店「祇園MAVO」。開店後間もなく京都の通の間で話題となり、今や全国から情報を聞きつけた多くのファンで賑わうこの店の特徴は、何といってもティーペアリングだろう。
「祇園MAVO」のオーナーシェフ西村勉さんは、お酒が飲めないお客様でも、ワインと同じようにフランス料理の雰囲気を楽しんでいただきたいという願いを込めて、ティーペアリングを始めた。ワインに通じる旨味を持つ日本茶。それをさらに進化させ、他には類を見ない商品として完成されたのがティーペアリングだ。見た目はまるでワインのような色合いのお茶が、料理に合わせてワイングラスで提供される。日本の伝統的な嗜好品であるお茶が、色合いといい風味といい、我々が一般的に想像するそれとは遥かにかけ離れていることに、誰もが驚くことだろう。

ティーペアリング、そこに注ぐ想いとは?

西村シェフは、お茶は料理と同じように大切な役割を果たすと考える。ゆえにこの店では専属の茶師を導入し、西村シェフが料理に合わせて研究を重ねて数値化したマニュアルを、さらに老舗抹茶専門店の協力も得て半年かけて完成させた。茶葉のブレンドや最終調整を茶師の四宮あやさんが行うことから、その名前にちなんで「mavo tea pairing aya “彩”」と命名。祇園MAVOのティーペアリングには“食卓を彩る”という意味合いが込められた。マニュアル化させた一方、祇園MAVOでは料理が日々異なるメニューで構成されるため、ティーペアリングも常に新しい組み合わせが研究され、進化し続けている。
実際、ティーペアリングを注文すると、緑茶に限らず、黒豆、ハーブなど様々な効能に優れた茶葉を見せながらプレゼンを行ってくれる西村シェフ。自身の感覚を軸に料理に用いるソースに合うように、茶師へ細かくフレーバーの指示を出す。料理で使う自家製のセロリラブの皮や牛蒡の皮、オレンジピール、バニラ、シナモンなどを用い、タンニンやカテキン、テアニンなど多くの作用を駆使。日本茶でありながらも、ワインと同じようにアタックやミドル、アフターの余韻や構成を促すために、抽出温度・時間、抽出方法、提供温度、さらにはワイングラスの種類にもこだわり提供されるのだ。
西村氏は言う。「お菓子にお茶を合わせればいいという解釈もありますが、僕はあくまでも飲料としてフランス料理に日本茶を完璧に寄り添わせたいのです」と。

お茶の価値を高めたい。

そもそも我々が考えるお茶というのは、喫茶店以外のほとんどの飲食店に行けば無料でいただけるものである。しかし西村シェフはこの常識となってしまった体制に疑問を抱いている。「お茶は日本の伝統的な嗜好品であるのに、これではせっかくの価値が台無しでは?」 そこで彼が考えたのが、新しい発想で日本固有のお茶文化を提供し、もっと多くの人にお茶の価値を理解し楽しんでいただくこと。「mavo tea pairing aya “彩”」。この活動を知ってもらうために、興味のあるレストランには無償で情報提供を行うほどだ。
祇園MAVOの舞台近くには、宇治という素晴らしい茶の生産地がある。西村シェフは京都祇園にいることの意味合いを深く感じ、日本茶もまた、それをひとつの「素材」と考える。鮨屋や和食店で無料で提供されるお茶。如何にそこに付加価値をつけ販売できるお茶に仕上げるか? そこには、繊細な管理と多大な努力でお茶を送り出してくれる生産者への深い敬愛の気持ちが隠れている。

料理にかける想い

自然豊かな四国・徳島の兼業農家で生まれた西村勉さんは、幼少期から祖母の作るお米や野菜を食べて育ち、その味や香りが未だに舌と脳に焼き付いているという。小学校3年生頃から、仕事で忙しくなった母を手伝うためよく台所に立つ少年であった。料理上手だった母や祖母は西村さんにとって憧れの存在となり、次第に料理に興味が湧く。高校卒業後、その道へ進もうと「大阪あべの辻調理師専門学校」に2年間通い、1年目はフランス料理専門カレッジ、2年目はフランス料理技術研究所を卒業した。その後、「守口プリンス」で13年、京都の「カフェ」で3年、2004年に奥様の裕美さんと共に神奈川県小田原市へ移住。小田原「ヒルトン」2年の経験を経て、2007年に念願の独立を果たし「la MATIERE」をオープン。そして2014年、そのお店を後継者に引き継いで、25年間の集大成の場として京都祇園に移転しオープンしたのが「祇園MAVO」だ。店名「MAVO」は、前店の「MATIERE」にさらに進化させるという意味合いの「evolution」を加えた。そこには「常に進化することでその時代に飲まれることなく、順応すること。それにより、料理作りという儚いモノづくりの中で、作り手と食べる側においての心を紡ぐやり取りがしたい」という西村さんの強い想いが込められている。

「mavo tea pairing aya “彩”」を今後より広めていくために。
その可能性は?

西村シェフは言う。「今後の方向性として、ティーペアリングに使用する茶葉を京都宇治だけに留まらず、数多くある全国の茶葉生産地に視野を広げ、全国でもこのティーペアリングというシステムを共有したい」と。これまで積み重ねてきた2年間の実績を踏まえ内容を確立し、さらなるマニュアル化も経て「mavo tea pairing aya “彩”」をティーパック化。他店舗への卸販売や、日本を飛び越え海外でのデモンストレーションやコラボレーションをすることなどの展望も考える。
「そのためには橋渡しや人脈構築、各種イベントへの参加、メディアへの露出が大きな躍進へと繋がるでしょう」と西村シェフは語る。「また、スポンサーシップをはかるための日本茶組合へのプレゼンテーションも重要かと思います。しかし、今現在私は日々研究の身であり、自由に身動き取れない状況です。もし私の想いに共感していただき応援してくださる方がいらっしゃるのなら、アイディアをいただける方、人と人を繋げていただける方を大募集中です!」

“茶を調理する”という感覚の下、料理ごとに提供されるティーペアリング。時間や茶の抽出に使用する機械導入のコスト、材料費、労力など、茶の色合いと風味、効能を最大限に引き出すための西村シェフの努力と想いは、料理人という域を超え、もはや究極の研究者ともいえる。

そんな「祇園MAVO」が、コロナ過に完全対応した究極のレストランを目指し、西村シェフの想いを忠実に形にし新生「MAVO∞」として3月8日に移転リニューアルオープンした。新店舗は従来のレストランの概念を超越し、今までにないまったく新しいコンセプトをベースに、カウンターの目の前の鉄板でライブ感あふれる調理を見ながら、味覚だけではなく五感で楽しむことのできるアイディアがたくさん組み込まれているようだ。きっとこのレストランの訪問者は誰もが忘れることのできない体験をここですることになるだろう。従来の固定概念にとらわれず誰もが予想しなかった新たなレストランの在り方を西村シェフが私たちに魅せてくれるはずだ。

MAVO∞
京都府京都市東山区八坂通り東大路西入る小松町594-7
TEL:075-708-6988
営業時間:18:00~ 一斉スタート、完全予約制
営業日:土曜日、日曜日、月曜日
https://www.facebook.com/mavo.gion/

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